前年度の研究において、TNF産生阻害剤投与によりラット胎仔IUGRの発症抑制が見られることが明かとなった。本年度は、本IUGRモデル発症機序におけるTNFの役割について、近年IUGRや類似病態である妊娠中毒症の発症との関連が注目されている白血球動態、ならびに胎仔発育に密接に関連する虚血後低灌流の惹起の観点から検討した。既報の方法に準じ、ハロセン麻酔下に妊娠17日目のS/Dラットに対して子宮胎盤循環を30分間虚血(虚血再灌流)した。虚血前後の各時点で血漿中のTNF-αならびにCINC/gro(IL-8)の測定(ELISA)および摘出した子宮・胎盤において顆粒球組織浸潤の指標であるmyeloperoxydase(MPO)活性の測定を行い、虚血前後の測定値の変化を検討した。 TNF-αについては、虚血直後に軽度増加がみられるものの、再灌流後は有意な増加は見られなかった。CINC/groについては再灌流120分の時点で虚血前に比べ5.6倍に有意に増加し、この増加はTNF産生阻害剤前投与群では有意に抑制された。また子宮のMPO活性は、再灌流120分で虚血前の約4倍に有意に増加したが、TNF産生阻害剤投与群ではこのMPO活性の上昇は有意に抑制された。胎盤のMPO活性には虚血前後で有意な変化は見られなかった。一方、子宮組織血流量は、再灌流60分以降に虚血前の約70%に減少したが、TNF産生阻害剤投与群では、この血流減少は有意に抑制された。 以上の成績より妊娠S/Dラット子宮胎盤循環IRモデルにおけるIUGR発症および虚血後低灌流の惹起にTNFが関与し、その役割の一部は白血球の接着・浸潤を介しているものと推測された。
|