研究概要 |
c-Fosなどのimmediate early gene(IEG)は外的刺激や薬剤などによる変性に対して最初に発現が誘導され,細胞の分裂,増殖,成長などに関与している.神経細胞の変性においても,IEGの発現が観察され,アポトーシスの誘導に関与していると考えられている. 本研究では中枢神経系において唯一成長後もturnoverが起こるとされている,嗅神経系でのIEGsおよびアポトーシスの発現を観察した.方法は,中枢神経に変性をおこさせるカイニン酸の腹腔投与の後,ラット嗅神経系を用いてどのように神経細胞死誘導がおこり,それがIEGの発現とどのような関係があるかを免疫組織化学的手法を用いて経時的に調べた. 嗅球においては12時間後にc-Fosの発現のピークがあり,嗅球の顆粒細胞層の顆粒細胞の核に発現が観られた.また,梨状葉皮質においても第三層の神経細胞の核に同様の発現ピークがあった. 一方,嗅球におけるアポトーシスの発現をTUNEL法により検出すると,ピークは4日後で,c-Fosの発現部分と同一部に陽性細胞が観られた.梨状皮質も同様であった.発現細胞数の経時的変化は両者とも同様の推移を示した.その他のIEGs(Fos B,Fra-2,Egr-1)については統計学的に有為な変化はみられず,局在も嗅神経系のみならず他の皮質でも観られた. 以上より,カイニン酸の腹腔投与によりラットの嗅神経系-嗅球の顆粒細胞層および梨状葉皮質にアポトーシスが誘導されることが確認され,また,今回観察したIEGsではc-Fosのみにピークをもつ推移が観察された.他の実験系においても,c-Fosはアポトーシスに先立って発現が観られることから,ラットの嗅神経系においても関連があると考えられる.したがってc-Fosは嗅覚系においてもアポトーシスに先だって発現しアポトーシスの誘導に関与していると思われる.
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