研究概要 |
現在の視標追跡眼球運動検査(ETT)においては,滑動性追従眼球運動(SPEM)と衝動性眼球運動(Saccade)のコンビネーションを評価しているが,これらはその特性や中枢経路からも全く別の系である.両者を分離して評価し,めまい平衡障害が,末梢性であるか中枢性であるかをより鋭敏に,簡便に鑑別可能な検査法が期待されている.われわれはこれまで従来のETTの刺激を工夫することで,この目的がかなえられる可能性を見いだした.すなわち,saccadeの影響をできるだけ少なくし,SPEM機能の評価のために,点視標とパターン視標の2種類を用い,振子様刺激した.刺激波は,正弦波とPseudorandom波の二つであり,正弦波は,0.2,0.4,0.8Hzの周波数で,振幅を種々変えたもの,Pseudorandom波は,最大角速度が一定となるような,0.2,0.4,0.8Hzの正弦波を位相についてランダムに合成したものとした.被検者として脊髄小脳変性症などの中枢性眩暈平衡障害の患者やメニエール病などの末梢性眩暈患者を対象とした.眼球運動は2D-VOGで記録し,コンピュータに取り込んだ後,我々の開発したプログラムを用いて,利得,位相を求めた.メニエール病などの末梢性前庭障害では,点視標とパターン視標で刺激の角速度による利得の有意な差は認めなかった.一方脊髄小脳変性症例において,周波数の高い刺激になると,点視標でみられるような利得低下が,パターン視標では認めなかった.ただしラクナ梗塞の症例では,こうした傾向は明らかではなかった.脊髄小脳変性症例では,saccade機能が悪いために,点視標で誘発されるSPEMが不良となるが,これに対してパターン視標刺激では,saccade機能に依存しないので,より正確なSPEM機能を評価でき,軽度の追従眼球運動障害を検出するのにMRIよりも鋭敏である症例の存在が示唆された.
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