研究概要 |
ヒトpIgR cDNAを用い,dbESTを検索した。その結果,約10種類のESTクローンを得た。これらのクローンのアラインメントを行ったところ,非翻訳領域(UTR)約1.6kbの塩基配列を得ることができた。この中にはpoly Aシグナル配列を1個含み,poly A配列も含まれることからほぼ完全長であると推測できた。得られた配列をもとに,5'プライマーとして終止コドンより3'側の塩基配列を含むプライマー及び3'プライマーとしてpolyA signal近辺の塩基配列を含むプライマーを合成し,RT-PCR法により3'UTRを含むフラグメント約1600bpを増幅した。このフラグメントをハイブリダイゼーションにより正しく増幅されたものであることを確認し,pT7-Blue vectorにサブクローニングした後,-775/pGL3(ヒトpIgR遺伝子5'上流域775bpがluciferase遺伝子の上流に組みこまれているベクター)のpolyAシグナル領域と置換した。このベクターをHT-29細胞にトランスフェクションし,luciferase assayによりプローモーター活性に影響を及ぼすか否かを検討した。その結果,3'UTR約1600bpを挿入したベクターでは挿入しないものと比較してプロモーター活性の減少が認められた。しかしながらこの減少は3'UTR約400bpを挿入したものと同程度であったため,定常状態においてプロモーター活性を減少させるcisのエレメントは,終止コドンより約400bp以内に存在することが示唆される。また,両者ともTNF-α刺激によってプロモーター活性は有為に上昇しなかった。以上の結果は,TNF-α刺激時には,ヒトpIgR遺伝子3'UTRが5'flanking regionと協調してプロモーター活性を増加させるのではなく,mRNAを安定化させる役割を持つ可能性を示唆するものである。今後RNA結合タンパク質の同定を行うことにより,3'UTRの機能が明らかになると考えられる。
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