研究概要 |
申請者らはこれまでコレラ毒素(CT)AサブユニットのADP-ribosyltransferase活性中心のアミノ酸を置換することにより無毒化した2つのCT変異毒素(mutant CT:mCT)S61F、E112Kを作製し,mCTが粘膜アジュバント効果を有することを報告した.本研究ではmCTのアジュバント誘導機構の解析とともにヒトに応用できる齲蝕・歯周病ワクチンを開発を目的とした.Streptococcus mutansの表面タンパク抗原surface protein antigen of S.mutans serotype c(PAc)をmCTとともにマウスに経鼻免疫すると,唾液および鼻腔洗浄液中にPAc特異的IgA抗体,血清中にPAc特異的IgG,IgA抗体応答が誘導された.さらに,mCTをアジュバントとして用いたPAc経鼻ワクチンはS.mutansの口腔内コロニー形成を抑制した.以上の結果より,PAcとmCT E112Kの経鼻投与は安全有効な齲蝕ワクチンの可能性を示した.次にmCTのアジュバント誘導メカニズムを解明するために,抗原提示細胞,CD4^+T細胞におけるmCT,CTおよび毒素原性大腸菌のheat-labile toxin(LT)の効果について解析した.B細胞あるいはマクロファージ培養系にmCT,CTあるいはLTを加えると副刺激因子であるB7-2の発現が誘導された.また,in vitroでTCR-CD3複合体を介したシグナルにより活性化されているCD4^+T細胞培養系にmCTまたはCTを加えると,Th1型サイトカイン産生を強く抑制した.一方,LTはTh2型,特にIL-4の産生を抑制した.また,IL-4欠損マウスより分離したCD4^+T細胞培養系にCTを加えるとIL-4のみならずIL-5の産生も認められず,CTのTh2型サイトカイン誘導能はIL-4に依存していることが示された.一方,LTで処理したIL-4欠損マウスのCD4^+T細胞は正常マウスと同程度のIL-5産生が認められた.以上の結果から,mCTはCTやLTと同様に抗原提示細胞に作用し,B7-2を誘導することによりアジュバント作用を示すことが示唆された.また,LTはIL-4に依存しないTh2型サイトカインを誘導するシグナル伝達経路を有し,そのIL-4非依存性Th2型サイトカインにより粘膜面におけるIgA産生を促すことが示唆された.
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