研究概要 |
血管反応性に対し,活性酸素種の種特異的作用様式が存在するか否か詳細に解析することを標記研究課題の最終目標とする。昨年度は神経伝達物質であるノルアドレナリン(NA)及び血管平滑筋張力を測定することにより,活性酸素種の作用を整理するための基礎実験を行った。本年度はその基礎実験を基盤として詳細な作用様式を検討するための実験に着手した。従って,シナプス前作用(α受容体に対する作用)に対して一重項酸素(^1O_2)がどのような特異的修飾作用を示すか解析することを目的の基本とした。 ニュージーランド白色家兎から摘出した血管螺旋状標本を作成した。表面灌流装置内のバスに標本を懸垂し,O_2,CO_2混合ガスにより通気したKrebs-Ringer溶液を表面灌流させ,安定期間後に測定を開始し,10分間の^1O_2曝露・10分間の電気刺激,10分間の回復期間とする実験設定で計30分間連続してNAサンプリングと血管張力の測定を行った。また,α受容体の遮断薬であるPrazosin(10^<-6>M)を^1O_2曝露と同時に表面灌流し,電気刺激を開始するまで計10分間処置した。血管張力変化は張力トランスデューサーを介して,内因性NA放出量は,表面灌流液を回収しその後前処理を経てHPLCにより定量した。^1O_2の発生は光増感試薬Rose bengal(50μM)に波長550nm,照度18,000 luxの緑色光を照射し行った。^1O_2の発生量は電子磁気共鳴(ESR)法を用い,2,2,6,6-tetramethylpiperidine(TEMP)が^1O_2と反応して生じる2,2,6,6-tetramethlpiperdine-N-oxyl(TEMPO)のシグナルを指標として測定した。 はじめに,用いた実験系において^1O_2が発生しているかどうかをESR法により確認した。ESR法ではRose bengal+光照射で^1O_2の発生を示す3本線のTEMPOラジカルの信号が確認され,^1O_2の消去剤として知られるL-histidine(50mM)の添加によりその信号強度は有意に減弱した。Rose bengal存在下における光照射により血管標本の静止張力およびNA放出量の増加が認められ,これらはL-histidine(50mM)の処置によりほぼ完全に消失した。次に,^1O_2が静止張力を増加させているのか,若しくは^1O_2によって放出されるNAが静止張力を増加させているのかを区別するため,α1受容体遮断薬であるPrazosin(10^<-6>M)を処置することにより検討した。^1O_2処置では,静止張力およびNA放出量はともに増加し,Prazosin処置によりその張力の増加のみが抑制された。このことにより,^1O_2曝露により放出されたNAが張力の増加を起こしていることが確認された。 本研究で得られた結果より^1O_2は,静止状態での張力及びNA放出量を増加させたが,静止張力の増加はα1受容体遮断薬の処置により抑制されたことから,^1O_2はシナプス前膜に直接作用し,シナプス前膜を障害あるいはシナプス前膜性α2受容体機能を抑制し,NA放出量を増加させ,この増加したNAが血管標本の静止張力を増加させたことが示唆された。
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