昨年までの研究で、顎関節症患者の関節滑液中の抗体がBCG菌のElongation Factor Tu(BCG EF-Tu)と反応することが明らかになった。本年度はBCG EF-Tuと顎関節症の病態との関与を検討した。Elongation Factorは真核生物、原核生物ともに保存されている転写に必要な因子である。そこでBCG EF-Tuのみが顎関節症と関連するのかどうかを検討した。ヒトのEF-Tu類似蛋白質EF-1αの遺伝子をクローニングし、リコビナント蛋白質を発現精製し、顎関節疾患者の滑液の抗体と反応させた。顎関節症患者の関節滑液中の抗体はヒトEF-1αへの反応を示さなかった。これにより、顎関節症患者の抗体は、BCG EF-TuのヒトEF-1αと相同性をもたない領域を認識していることが示唆された。 また顎関節症患者の関節滑液中の抗BCG EF-Tu抗体の量が、治療によってどのように推移するのかを調べた。6人の顎関節症の患者から治療のために関節穿刺治療時に採取した関節滑液を検体として、BCG EF-Tu抗体の量を経時的に測定した。6人のうち4人が治療前に抗BCG EF-Tu抗体が検出された。その4人のうち治療により症状が改善した2人の患者の関節滑液中抗BCG EF-Tu抗体の量は経時的に減少していた。また治療により症状の改善が見られなかった2人の患者のの関節滑液中の抗BCG EF-Tu抗体の量は常に高いレベルを示していた。よって関節滑液中の抗BCG EF-Tu抗体の量は症状の推移に関連していることが示唆された。本研究の結果はEF-Tuの顎関節疾患への関与を示すだけでなく、本疾患の発症の機序の解明に寄与すると考えられる。
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