研究概要 |
咀嚼,嚥下,呼吸の相互メカニズムを解明するにあたり,咀嚼・嚥下時の顎運動,甲状軟骨の上下運動および咀嚼筋活動を同時記録し,咀嚼と嚥下の両者の関係について検索した.被験者は実験の主旨を理解し同意の得られた正常有歯顎者とし,被験食品は大きさ4段階,硬さ3段階と異なる計12種類の球状寒天とした.筋電図は咬筋,側頭筋,顎舌骨上筋および顎舌骨下筋とした.その結果,咀嚼中には閉口筋と開口筋が相反性に活動するのに対し,咀嚼に引き続き行われる嚥下直前には開・閉口筋がほぼ同時に活動することが明らかとなった.さらにこの開・閉口筋の活動開始点を詳細に分析した結果,活動開始が一番早いのが咬筋,ついで側頭筋,顎舌骨上筋,最後が顎舌骨下筋となり,食物の動態とほぼ一致することが明らかとなった. 本年度は呼吸と嚥下の時間的な関係を解明するために,鼻からの呼気・吸気量と顎運動,甲状軟骨の上下運動および咀嚼筋活動を同時記録した.被験食品は,大きさが3段階に異なる3つの球状寒天および5ml,20mlの水とした.その結果,いずれの食品においても嚥下は呼気相の途中で起こり,無呼吸の状態になることが明らかとなった.この状態は,水および大きい食品では呼気相の早期におこっていた.すなわち,食品の性状および体積により嚥下のタイミングが異なることが明らかとなった.また,舌骨上筋の活動開始点と甲状軟骨の移動開始を指標として嚥下のスムーズさを見たところ,被験食品のうち20mlの水を飲んだときが他の食品嚥下時に比較し有意に早くすなわちスムーズに嚥下していた. 以上の結果から,嚥下の筋活動および甲状軟骨の上下動および呼吸には食品の性状や大きさが密接に関与しており,飲み込みやすい食品および量が存在し,正常者でも嚥下困難となる食品も存在することが推察された.
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