研究概要 |
老人病院における患者と本学歯科病院に来院する患者の口腔内細菌叢およびデンチャープラーク中の細菌叢について検討を行った結果若干の知見を得た。口腔内細菌叢は高齢者に至る過程で複雑に変化しており,健常歯列者であっても義歯装着患者のように口腔内のCandida属菌が増加する傾向が認められた。今回,検定は行っていないが本学歯科病院および老人病院に共通に認められ,また健常歯列者においては歯周病細菌を含めたグラム陰性菌が多く認められる傾向を示した。現在では歯周病細菌が原因で発症する全身疾患感染症における研究も行われ,歯周病と心内膜炎や肺炎などの感染症,さらには糖尿病,骨粗鬆症との関連が指摘されていることともこの結果は一致している。老人病院では本学来院患者に比較して,算定された菌数が多い傾向を示した。検査を行った老人病院は入院患者が主体であったことや,口腔衛生管理がなされていないことが影響していると考えられる。本学歯科病院来院患者は通院が主であり比較的全身疾患等の問題も少ないことからこのような傾向を示したと考えられる。また,全身感染症の発症には,歯周病細菌の産生する毒素や酵素,加えてリポ多糖などが病原因子として関わっていることが明らかになってきているが,高齢者の歯周病予防はあまり熱心にされていない現状である。総義歯装着者のデンチャープラーク中のCandida属菌は義歯洗浄等や洗口の奨励によりある程度減少させることが可能であるが,歯牙が残された高齢者においては口腔内衛生管理が重要であると思われる。デンチャープラーク中の細菌はほとんどがCandida属菌であり,高齢者においては真菌を含めた複雑な口腔内細菌叢が形成されていることが示唆された。今後は口腔領域への抗菌剤の応用を目的として種々の抗菌剤の検討を行っていく予定である。
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