本研究では、歯牙形成過程におけるcalbindin D28kの分布の変化を形態学的に詳細に検索した。その結果、 1.歯牙形成過程においてcalbindin D28kは、石灰化能を有するエナメル芽細胞のみならず、石灰化能を有しないマラッセの上皮遺残、歯根膜線維芽細胞、歯肉内縁上皮、enamel free areaの細胞などにも分布する。 2.calbindin D28k陽性反応を示すマラッセの上皮遺残および中間セメント質の細胞は、その超微構造から細胞活性が低いことが示唆され、calbindin D28kは、これらの細胞の維持に関与している。 3.臼歯歯根膜でのcalbindin D28k陽性線維芽細胞は咬合開始時期より増加すること、および咬合圧の増減に応じてCB陽性細胞の数が増減することから、calbindin D28kは咬合による機械的刺激に対する細胞の反応と関連する。 4.calbindin D28kは退縮エナメル上皮におけるヘミデスモゾーム形成に関与している。 5.enamel free areaの上皮細胞はエナメル芽細胞と同様のcalbindin D28kの分布を示すことから、calbindin D28kは石灰化のみならず細胞の分化に関連している、ことが示唆された。 以上のことから、calbindin D28kは歯牙形成過程において、石灰化に関与する細胞のみならずマラッセの上皮遺残など細胞活性の低い細胞の維持や、歯根膜線維芽細胞など種々の刺激に対する細胞の保護といった、様々な機能を有していることが示唆された。
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