前年度に、まず頭頚部の筋を含めた咀嚼筋の節電図を中心とした、総合的な顎口腔機能分析システムの確立と筋疲労分析プログラムの開発し、それを利用して筋疲労に関する健常人のデータの記録および分析を行った。今年度はさらに歯列不正を有する患者を対象に同様の実験を行い、正常咬合者と比較を行うことで、歯列や咬合の不正が筋疲労の観点から咀嚼機能にどのような差異をもたらすのかを検討した。 実験は、叢生を呈する女性患者7名(平均年令22.3歳)を対象に、検査室で咬合力計を用いて、98、196、294Nの実験的負荷を45秒間与え左右の咬筋、側頭筋および胸鎖乳突筋の活動を記録し、それぞれの疲労の程度(fatigue ratio)を分析し、正常女性群7名(平均年令24.2歳)の値と比較検討した。 まず、咬合状態の評価として、顎口腔機能分析システムの一部であるデンタルプレスケールを用いて、咬合圧、咬合接触面積を計測した。その結果、咬合圧、咬合接触面積のいずれも正常群が不正咬合者群より統計学的に有意に大きな値を示した。また各咀嚼筋活動の周波数分析からfatigue ratioは全ての筋で全ての負荷条件において、正常群より不正咬合者群の方が高い値を示し、特に左側胸鎖乳突筋では196Nの時に、左側側頭筋では98Nの負荷時に統計学的に有意差が認められた。以上のことから、咀嚼筋と頚部筋に実験的な負荷を加えた場合、不正咬合者では正常咬合者よりも筋疲労を起こしやすい傾向が示唆された。
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