研究概要 |
本年度は低原子価ケイ素化学種の酸素原子親和性を利用した還元反応の応用範囲について検討するとともに、そのメカニズムの解明についても詳細な検討を行った。 まず、ジクロロジメチルシラン-亜鉛-ジメチルアセトアミド(1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン)の3成分から成る還元系を用いる還元反応について、芳香族ジスルフィド類およびスルホキシド類を基質として用いる反応について検討したところ、いずれも速やかに還元され、それぞれ芳香族チオール類およびスルフィド類をほぼ定量的に与えることを見いだした。これは上述の3成分還元系において、芳香族ジスルフィド類を還元的に切断しうる新たな活性種が生成していることを強く示唆する結果であると考えている。 一方、芳香族スルホニルクロリドの還元反応の応用として、生じた芳香族チオール類を精製することなくα,β-不飽和エステル類やアルデヒド類に付加させるワンポット反応について検討したところ、目的とする反応が様々な基質に対し80%前後の良好な収率で進行することを見いだした。 反応機構面の検討としては、ジクロロジメチルシランとジメチルアセトアミドから形成される錯体の構造と、それが亜鉛により還元される可能性について、密度汎関数法を用いた計算化学的な検証を行ったところ、ジグロロジメチルシランに対して2当量のジメチルアセトアミドが配位した化学種ではケイ素および塩素原子の高度なイオン化が起こり、これが亜鉛により還元されて低原子価のケイ素化学種(ジメチルシリレン)を生じる可能性が示唆された。 これ以外にも、芳香族アルデヒドを基質とする反応により還元的カップリング反応が進行することなども明らかになっており、更なる検討により最終的な目的であるシリレン-カルベントランスファーを実現できる可能性を示すことができたものと考えている。今後はこれらの炭素-炭素結合生成反応への応用について積極的な展開を図っていく予定である。
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