研究概要 |
研究代表者は、メタロチオネイン(MT)欠損により発現量が低下する遺伝子NM31が、マウスの4種類のMT分子種のうちMT-I,MT-IIのみならず、脳特異的発現分子種であるMT-IIIによっても発現制御を受けている可能性を報告した。このNM31遺伝子はペンテトラゾール(PTZ)によって誘発される痙攣発症に関わる遺伝子として報告されているPTZ-17と同一である。PTZ-17は肝臓でも僅かに発現が認められるが、特に脳で高い発現を認め、マウスのみならずヒトやラットでもその発現が確認されている。この遺伝子産物はカルシウムの流入促進に関わっていることがxenopus oocyteでの強制発現系により確かめられているが、痙攣発症時には神経細胞内でのカルシウム濃度の変動が生じることから、本蛋白質はカルシウムの細胞内濃度を調節することにより痙攣発症に関わっているとも考えられる。マウスにPTZを投与して痙攣を誘発した場合、マウス脳内のPTZ-17発現量は顕著に減少することが報告されている。従ってPTZ-17(NM31)発現量が低いMT遺伝子欠損マウスではPTZによる痙攣誘発が生じやすいものと期待されたが、PTZ処理後に痙攣が発症するまでの時間を指標に調べた感受性は両系統のマウスで違いは認められなかった。本研究で用いたMT-I,-II遺伝子欠損マウスは、脳特異的発現分子種であるMT-IIIは発現しており、上記のようにNM31はMT-IIIによる発現制御を受けていることも判明している。そこでマウス組織におけるNM31の発現を調べたところ、MT欠損マウスの肝臓では低いものの、大脳及び小脳では対照マウスと同程度であり、従ってPTZの感受性の違いが認められなかったものと考えられる。しかしMT-III欠損マウスやMT-I,-II欠損マウスがカイニン酸誘発痙攣を起こしやすいとの報告が最近なされていることから、MTが痙攣に関与している可能性はかなり高い。本研究によってMTの新しい生理機能として他の遺伝子発現調節が明らかとなり、同時にMTが痙攣発症に関わる可能性も示唆された。
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