昨年度の研究よりDIDSがラット中大脳動脈結紮-血流再開通による虚血モデルにおいて神経保護作用を示すこと、非特異的caspase阻害剤であるzD存在下においても梗塞巣の拡大をさらに抑制する作用があることを示した。本年度は、特に虚血による神経細胞死で大きな役割を果たしていると考えられているカテプシンB・Dに対する作用を検討した。その結果、DIDSは脳虚血負荷直後から投与してもカテプシンB・Dの発現量にはほとんど影響を与えないことが判明した。同様の実験をスナネズミの両側総頸動脈結紮-血流再開通モデルにおいて検討したところ、DIDSは虚血直後から脳室内投与を行うことによって海馬CAl野の神経細胞の脱落を有意に抑制することが判明した。しかしながら、このとき虚血負荷によるCAl野の錐体細胞、ならびにその周辺に存在するアストロサイトのカテプシンBの誘導は抑制されなかった。また、ミクログリアの増殖、あるいは血管から浸潤したマクロファージの数にもDIDS投与による影響が見られなかった。脱落を免れた神経細胞が機能を果たしているかどうかを検討するために、これらの動物でステップスルーとステップダウンの受動的回避学習を試みたところ、虚血負荷による学習行動の抑制が小さいことが判明した。以上の結果より、DIDSの神経細胞保護効果はカテプシンの誘導を抑制することによるものではないこと、ならびに周辺の非神経細胞の活性化にはDIDSは影響を与えないことが示唆された。また、脱落を免れた神経細胞は単に生存しているだけではなく、その機能も維持されていることが判明した。
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