昨年度の研究から、麻薬依存形成・禁断症状発現の単一細胞レベルでのモデルと考えられている、アゴニスト持続的処置によるアデニル酸シクラーゼ系の過感受性(「cAMP overshoot」現象)は、G蛋白質α_iサブユニットによる持続的なACの抑制が必須であることが明らかとなった。このG蛋白質αサブユニットのGTPase活性を増強させることによりG蛋白質の機能を調節しているregulator of G protein signaling(RGS)に着目し、アゴニスト持続的処置時のRGS mRNA発現量の変化、及びRGSがオピオイド受容体情報伝達系に及ぼす影響を検討した。クローン化μあるいはκオピオイド受容体を安定的に発現させたPC12細胞に、それぞれのアゴニストを持続的に処置したところ、PC12細胞にdominantに発現しているRGSであるRGS4のmRNA発現量は濃度依存的に増加し、それは処置後2時間をピークとしたものであった。また、このRGS4mRNAの増加は、それぞれのアンタゴニストの同時処置、あるいは百日咳毒素の前処置により阻害された。一方、μオピオイド受容体とRGS4を共発現させたHEK293細胞において、モルヒネによるforskolin誘発cAMP蓄積抑制効果は、μオピオイド受容体のみを発現するHEK293細胞の場合と比較して、有意に減弱された。以上の結果は、オピオイド受容体の持続的な活性化、及びそれに引き続くG蛋白質G_<i/o>ファミリーの持続的な活性化により、RGS4mRNAの発現量が増加し、また、そのRGS4はオピオイド受容体を介する情報伝達系を負に調節することを示し、RGSファミリーが、オピオイド持続的処置による耐性の形成、あるいは依存性の形成に関与する可能性を示唆している。
|