昨年度、我々はメタロチオネイン(MT)がリンパ球の分化や増殖反応には関わっていないことを明らかにした。しかしながら、マクロファージ(MΦ)をリポポリサッカライド(LPS)で処理した際のTNF-α産生に関わっていることが示唆されたことから、今年度はエンドトキシンなどによる炎症反応時におけるMTの存在意義について、MT-IおよびIIを欠損したMTノックアウトマウス(MT-KOマウス)を用いて検討を行った。LPSとガラクトサミン(GalN)を投与する肝炎症モデルを用いて、急性期の炎症に対するMTの影響について検討したところ、MT-KOマウスでは野生型マウスに比べ、投与8時間後において有意な致死作用の増大が確認された。そこで本結果が炎症因子産生の差に由来するものなのかを検討した。LPSとGalNを投与後の血中TNF-α濃度、およびNO濃度には差が認められなかったが、platelet-activating factor(PAF)の産生の有意な亢進が認められた。しかしながら、MT-KOマウスの致死感受性をPAFだけで理由づけるにはその差が小さいことから、その他の因子の検索を試みた。その結果MT-KOマウスにおいては、肝細胞中のα1-acid glycoprotein(AGP)のmRNA量が有意に低下していた。AGPは、急性期の炎症に対する防御因子であると考えられていることから、MTはAGPの産生を通して急性期の炎症反応を軽減する作用を有していると示唆された。
|