研究概要 |
(1)ストレッチ刺激を与えた肺動脈組織、肺動脈由来培養平滑筋細胞(PASMC)、同・内皮細胞(PAEC)いずれにおいても接着斑キナーゼ(FAK)のチロシンリン酸化が亢進すること、(2)肺動脈組織およびPASMCではFAK以外にも多数のチロシンリン酸化シグナルが同時に増大すること、(3)PASMC細胞膜表面でのPDGF受容体β(Rβ)の発現増大が起こること、(4)肺高血圧モデル動物の肺動脈組織では選択的にRβの構成的発現量の増大が起こっていることを見いだした(Tanabe Y.et al.,Mol.Cell.Biochem.215:103-113,2000)。FAKが活性化することから、ストレッチのような機械的力学刺激を感受する機構の一部は接着因子インテグリンを介していると考えられた。また、これらの反応は即時的収縮能を失った培養平滑筋細胞でも起こることから、増殖や病的組織再構築等の中長期の細胞応答に関連したものであり、過剰な血行力学因子によりRβの発現が高まると血管平滑筋細胞の増殖や遊走が増大し、血管の狭窄や緊張性が増加し更に血圧が高まるといった悪循環機構の存在を示唆する。一方、以前筆者らは肺動脈にストレッチ刺激を与えると、血管収縮活性を持つトロンボキサンA_2(TxA_2)が内皮から産生され、弛緩性のプロスタグランジン(PG)I_2との相対的量比により即時的収縮を発生することを報告した(Nakayama K.,et al.,Br.J.Pharmacol.122:199-208,1997)。TXA_2は肺高血圧病態に関与する重要なメディエーターと考えられている。しかし、今回のより詳細かつ総合的な検討によれば、TXA_2以外にも血管収縮性PG類であるPGF_<2α>、PGE_2、PGH_2(SnCl_2存在下PGF_<2α>増加分として測定)等もストレッチ刺激を与えることにより内皮からの産生が増大することがわかった。さらにこのときインテグリン機構をRGDペプチド(RGD)により阻害すると、TxA_2、PGF_<2α>産生は完全に抑制されたが、PGE_2およびPGH_2産生は抑制されなかった。このとき収縮は殆ど抑制されなかった。RGDにより抑制されなかった2種のPGのうち、測定された程度のPGE_2量は肺動脈に与えても、収縮・弛緩のいずれも観察されなかったことから、収縮の主因ではないと考えられた。PGH_2はTxA_2と受容体が同一であり、受容体拮抗薬SQ29548やCOX阻害薬で収縮が完全に抑制されること、PGF_<2α>などより強い血管収縮活性を持つことなど考え合わせると、ストレッチで産生が増大し、RGDでも産生が抑制されない収縮物質の本体であることが示唆された(Saito M.,et al.,Jpn.J.Pharmacol.85 suppl.1:68P,2001)。
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