研究概要 |
神経成長因子(NGF)によって誘導される初期応答遺伝子として,これまでに転写因子やサイトカイン類などをコードする遺伝子が報告されているが,申請者らはフォルボールエステル(TPA)で誘導されることが知られているTIS(TPA-Induced Sequences)遺伝子群の一つであるTIS11もNGF刺激時の初期応答遺伝子の一つであることを報告している.この発見を機に,申請者はTIS11遺伝子の発現調節機構を解明するために,TIS11遺伝子のプロモーター領域の解析を進め,プロモーター活性が細胞特異的に制御されることを明らかにした。さらに,NGFと同様にTIS11遺伝子の発現を誘導するTPAが,MAPキナーゼ経路を活性化させることによりTIS11遺伝子のプロモーター活性を増大させることを見い出した.NGFもTPAと同様にMAPキナーゼ経路を活性化させることから,NGFによるTIS11遺伝子の発現誘導もMAPキナーゼ経路の活性化に基づいていることが示唆された. 申請者は,TIS11遺伝子の翻訳産物であるTIS11蛋白質の機能解析についても研究を進め,NGFに応答して交感神経細胞様に分化するPC12細胞を用いて,TIS11蛋白質が基本転写活性を増大させる転写促進因子であることをはじめて発見し,TIS11蛋白質がNGFの生理作用に関与する転写調節因子の一つであることを示唆した.そこで,TIS11蛋白質は,核内へ移行して,はじめて転写調節機能を発揮することから,TIS11蛋白質の核-細胞質間輸送と転写制御の全体像を捉えるために,TIS11蛋白質の核内輸送経路に関する研究を行った。その結果,TIS11蛋白質の一次構造にて核移行に必要となるアミノ酸領域(核移行シグナル)を同定することができたので,今後,TIS11蛋白質の核内輸送機構を詳細に検討する予定である.
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