研究概要 |
今年度は、αBクリスタリンのリン酸化が持つ生理的な役割を明らかにすることを目的として、ヒトαBクリスタリンの野生型(wt-αB)および3カ所のリン酸化部位(Ser19,Ser45,Ser59)をアスパラギン酸残基に置換したリン酸化擬似変異体(3D-αB)のリコンビナント蛋白質を大腸菌に大量発現させた後に精製し、種々の蛋白質化学的な解析を行った。両蛋白質のCDスペクトルを測定したところ、far UVCDスペクトルは、両蛋白質共にβ-sheet構造を多く含むと推測されるスペクトルを示し、明らかな差は観察されなかった。このことから、wt-αBと3D-αBとでは、顕著な二次構造の変化は起こっていないことが示唆された。一方、near UVCDスペクトルは有意に異なっており、変異導入によって三次構造の変化が起こっていることが示唆された。この結果は、蛍光スペクトルの測定によっても確認することができた。また、温度上昇に伴うfar UVCDスペクトルの変化を調べると、wt-αBよりも3D-αBの変化が大きいことがわかった。さらに、両蛋白質の疎水性をANS binding assayにより比較したところ、3D-αBは疎水性が低下していることがわかった。ショ糖密度勾配遠心法によって重合状態を調べたところ、3D-αBはwt-αBに比べて低分子量側に検出された。ゲルろ過法によってみかけの分子量を調べたところwt-αBは約550kDaの、3D-αBは約390kDaの重合体を作っていることがわかった。また、両蛋白質の分子シャペロン活性を蛋白質の凝集抑制作用、およびルシフェラーゼの活性回復で調べたところ、3D-αBはwt-αBよりもシャペロン活性が低下していることがわかった。
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