平成11年度の本研究においては、低分子量の金属結合蛋白質であるメタロチオネイン(MT)が、細胞質内のレドックス状態を変化させることにより、IκBの分解抑制を介して転写因子NF-κBの活性を負に調節していることを見い出した。しかし、MTは細胞の種類や状態によっては核に局在することが知られており、核においてもNF-κBの活性調節に関与している可能性も考えられる。そこで今年度は、MTの細胞内局在の違いが転写因子NF-κBの活性化にどのような影響を与えるか検討するために、MTに高分子量蛋白質であるβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)や核移行シグナル(NLS)などを融合し、MTを細胞質にのみ、あるいは核にのみ発現させる系の構築を行った。まず、MTをβ-gal遺伝子と融合させ、MT欠損細胞に発現させたところ、MTに対する特異的抗体による抗体染色の結果、MTが細胞質にのみ局在していることが明らかとなった。また、MT-β-gal融合蛋白質に更にNLSを融合してから発現させると、この場合はMTは核にのみ局在していた。しかし、この系では細胞が生きたままMTの局在を検討することができないので、次に、MTとgreen fluorescent protein(GFP)の融合蛋白質に、更に β-galやNLSを融合し、細胞に発現させることを試みた。その結果、GFP-MT-β-gal融合蛋白質を発現させるとGFPによる蛍光は細胞質にのみ、また、GFP-NLS-MT融合蛋白質を発現させると蛍光は核にのみ観察された。以上の結果から、MTを細胞質にのみ、あるいは核にのみ発現させることが可能となった。現在、これらの融合蛋白質をMT欠損細胞に発現させることにより、NF-κBの活性化がどのように変化するかについて、ゲルシフトアッセイやルシフェラーゼレポータージーンアッセイにより検討を進めている。
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