研究概要 |
近年,ターナー症候群のみならず,マウスにおいても刷り込みを受けるX連鎖遺伝子の存在が示唆されているが,刷り込みが確認された遺伝子の報告はない。本研究の目的は,父方・母方のヒトX染色体を保持するマウス細胞を作製し,それぞれで発現の異なるESTのスクリーニングを行うことにより,ヒトX染色体上の刷り込み遺伝子群を単離することにある。 昨年度においては,細胞融合法を用い樹立した194クローンより,父方および母方の完全なX染色体を含むヒトxマウス雑種細胞をそれぞれ4クローン以上得た。これらの雑種細胞にはX以外のヒト染色体も含まれるため,本年度はさらに微小核細胞融合法により,ヒトX染色体1本を保持するマウス細胞を樹立した。なお,単一ヒト染色体移入マウス細胞のパネル作製過程において,15番染色体上の複数の新規刷り込み遣伝子を同定した。これらの父性発現遺伝子群はマウスにおいて致死効果を示す染色体領域に位置することなどから,神経症状を主徴とするブラダー・ウィリ症候群の発症に関与することが示唆された(Meguro,et al.,Hum.Mol.Genet.,10,383-394,2001)。さらに,近傍の刷り込み候補領域より,中枢神経系において逆の母性発現を呈する刷り込み遺伝子ATP10Cを単離することに成功した。ATP10Cはアンジェルマン症候群において発現が消失していることなどから,主に肥満形質に関与する責任遺伝子の一つである可能性がある(Meguro,et al.,in submission)。 微小核細胞融合により得られた255クローンについて染色体の活性化状態などの解析を行い,父方および母方の完全なX染色体を効率に保持するそれぞれ3クローンの単一ヒトxマウス雑種細胞を得た。現在,これらのクローンを用いESTの発現パターン解析を進めており,数種の刷り込み候補遣伝子を同定した。今後は,スクリーニングを拡大するとともに,得られた候補遺伝子群について正常体細胞における刷り込みの有無の検討を進めたい。
|