研究概要 |
Y染色体上の性決定因子であるSRY(sex determining region on Y)が発見され,それ以降いくつかの性決定に関与する遺伝子が同定されてきた。SRYはDNAに結合して,他の遺伝子の発現を調節することが予想されるが,SRY遺伝子が直接制御する遺伝子は未だ同定されていない。性分化カスケードを明らかにすることは内分泌攪乱物質の研究にもきわめて重要な意味を持つ。 本年度は昨年度に引き続いて性決定のカスケードにおいて,SRYが制御する遺伝子の同定を目指した。ヒトSRYcDNAを強力なプロモーターを持つ発現ベクターpCXN2へ組み,これをヒトembryonal cell carcinaoma由来の細胞株であるNT2/D1 cell lineに導入した。抗生物質G418の存在下で恒常的にヒトSRYを過剰発現している細胞およびpCXN2のみをもつ細胞をクローン化した。性決定カスケードに重要な役割を担っていると考えられるSOX9,SF-1に関してはSRYの過剰発現による発現量の変化は認められなかった。生体内ではSOX9やSF-1はSRY発現以降,男性型の発現パターンを示すが,SRYのみがこれらの遺伝子発現に必ずしも重要ではないということが明らかになった。 またSRYが他のタンパクと共役して標的遺伝子を調節する可能性を考え,酵母Two hybrid systemによってSRYと相互作用するタンパクの同定を試みた。SRYcDNAの全長をGAL4DNA binding domainの下流に接続し,精巣由来のcDNAで作成されているpreyライブラリーをスクリーニングし,14種類の陽性コロニーを得て現在解析中である。SRYの転写に環境ホルモンが影響を及ぼすことも考えられるため,エストロゲンの暴露実験を行ったが,RT-PCRレベルではSRYの発現量の変化は認められなかった。
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