研究概要 |
酵素が持つ優れた触媒能力を巧みに応用した測定系は,臨床検査のみならず医学生物学の領域に幅広く浸透し,今日のバイオ技術を支える重要な手段となっている。しかしながら,測定系確立の決め手である酵素の調整法に関しては,今なお,不安定で失活し易かったり,高コストであったりする等の多くの問題点を抱えたままである。従って,酵素に匹敵する触媒能力を持った安定な新素材を開発し,これを代替物として用いることができれば,その応用範囲の広さからみても非常に意義あることと考えられる。 本研究では,自己免疫疾患を自然発症する動物の血清中に存在する様々な自己抗体の中から,細胞融合技術ならびにスクリーニング法を駆使して,DNA分解活性を有する触媒抗体を選別し,これを酵素と抗体の両性質を併せ持った新素材として,従来からのDNA分解酵素(DNase)の代わりに応用することを目的として研究を行い,次のような知見を得た。 1.サンドウイッチタイプの酵素免疫測定法(ELISA法)を開発し,抗DNA抗体価の測定系を確立した。 2.開発したELISA法を用いて,自己免疫疾患を自然発症するマウス(MRL/lprマウス,10週齢)の血清中に抗DNA抗体が高力価で存在していることを確認した。 3.プラスミドDNA(主としてpBR322)を基質に用いて,DNA分解酵素活性の測定系を確立した。 活性は,基質と検体を37℃でインキュベートした後に電気泳動にかけ,その後EtBr染色を施し染色パターンの変化をミニタリングする事によって見積もった。 4.MRL/lprマウスから抗DNA抗体を活発に分泌している脾臓を摘出し,細胞懸濁液を調製した。 これを,ミエローマ細胞懸濁液(SP2/0細胞を使用)と混合し,PEGを用いて両者を細胞融合した。 5.融合後にHAT培地で選択を行ったところ,培養プレートあたり3〜5ウエルの割合でコロニーの形成が認められた。 6.コロニー形成の認められたウエルより,培養上清を一部採取し,この中に分泌されている多数の自己抗体の中からDNA分解酵素活性を指標にして触媒抗体の選別を行った。 7.選別の結果,弱いながらもDNA分解活性の存在が観察され,得られたモノクローナル抗体が触媒抗体として応用され得る道を新たに拓くことができた。
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