本研究の目的は、糖尿病の患者教育にメンタルヘルスケアからアプローチするために、糖尿病患者の認知する心理社会的ストレッサーが6ヶ月後及び1年後の血糖コントロールに及ぼす影響について縦断的に調査することである。 今年度は平成11年度に行ったベースライン調査の対象に、引き続いて6ヶ月目および1年目のフォローアップ調査を行った。ベースライン調査に参加した60人のうち入院した者などを除外した結果1年後フォローアップ調査で解析対象に残ったのは54人(平均年齢60.1±10.6歳)であった。 心理社会的変数の各尺度(糖尿病特有の心理社会的ストレッサー・ライフイベント・Daily Hassles・コーピング尺度)・身体的要因(体重、罹病期間、合併症の有無)・個人的要因(年齢、性別)と、血糖コントロール(ベースライン調査とフォローアップ調査時のHbAlcの変化率)との関連を検討した。さらに面接調査の結果をHbAlcの変化率が+10%以上群と+10%未満群に分けて分析した。以下の結果を得た。(1)重回帰分析の結果、HbAlcの変化率に有意な関連があった要因は合併症の有無と罹病期間であり、心理社会的変数の各尺度との間に有意な関連はなかった。(2)HbAlcの変化率が+10%以上であったのは6人であった。そのうち3人は合併症がすすんでおり生活の制限と症状による苦痛を訴えていた。夫婦関係など人間関係の葛藤が血糖コントロールを悪化させていると感じている人は4人であった。悪化しているもののインスリンを拒否している者もいた。+10%未満群では、ストレスがあっても発散する方法を得ている者が多く、また負担を感じながらも厳しい自己管理をしている者がいた。HbAlcの変化率と心理社会的変数との間に関連は認められなかったものの、合併症による苦痛や人間関係の葛藤が血糖コントロールの悪化をもたらす可能性が示唆された。
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