研究概要 |
【研究目的】思春期の心身ともの健康に関する援助のために,看護職者による,インターネットを利用した保健相談事業の展開を試み,その有効性を検討する。 【研究方法】(1)思春期向けホームページを開設し,援助のニーズを把握し,相談内容を分析する。(2)文献検討および思春期保健相談に携わる相談員へのインタビュー結果の分析を行う。 【結果】(1)(1)思春期保健相談ホームページの利用状況-----思春期のニーズの高いと思われるからだ(性器,避妊を含む)や心の健康に関する項目の情報ページや掲示板を設け,男女別にページを振り分け,約9ヶ月間のデータを集積した。のべ約9,000件のアクセスがあり,利用ページ別にみると,男女ともにからだに関する情報の利用が多く,女性向けページの利用率の方が高かった。掲示板への書き込みは男性26件に対し女性37件で,内容はセックスに関することが最も多く(65%),次いでからだの悩みについて(13%)だった。直接,電子メールを利用して相談したケースはのべ41件あり,男性29%,女性71%であった。電子メールでの相談者の年齢は11歳〜27歳で,10代が83%であった。相談内容はからだと避妊方法に関することがそれぞれ15%程度で最も多かった。(2)利用者のニーズと利用による効果-----インターネット相談の利用者の約半数(49%)は複数回の反復利用をしており,距離を超えたコミュニケーション手段に対する期待も見受けられたが,単に情報を得るための者も多くいた。また約10%の者が相談を受けた結果に関して満足感を示し,利用したことが有効に作用したと考えられる。(2)インターネットを利用した相談事業のメリットとして利用者側には情報の入手,時間を選ばない,対面せず匿名性が保持できる気軽さ,文字で表すことによる浄化作用があり,運営者側にも時間的余裕をもって応対できる,個々のケースから学ぶことやネットサポートの広がりによる利得などもあった。デメリットの主なものにはプライバシーの問題,インターネット犯罪やウィルス被害の可能性,労力と時間の浪費,個人の責任の限界などがあげられた。 【考察】インターネットを利用した相談活動によるメリット・デメリットは数多く,より良いサポート体制作りために,弊害への対応を1つ1つ対処する必要がある。この方法は,すべての人への普遍的なアプローチとしてでなく,インターネット利用の活発な若い年齢層や対面式の対応が困難な事例など,特定の対象者にとっては効果的な関わりを持つ援助方法として可能で,部分的な自己開示による効果が期待される。また対面によるラポールの形成と非対面によるメール交換の繰り返しにより,質の高いコミュニケーションが図れる可能性があることも示唆された。さらに看護職者が関わる意味として,インターネットによる双方向性により,共感や相互理解,互いが学びあう「相互主観性」も生まれうることが考えられた。
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