本研究の目的は、がん患者が心の中にゆとりを生み出していくときに家族が果たす役割を明らかにし、患者にとっての家族の意味とゆとりが、どうつながっているのかを検討することである。この目的を達成するために、12年度は、研究への参加に承諾が得られた6名のがん患者から、家族とかかわりあいながら生きるという体験や思い、心のゆとりを生み出していったプロセスについて話を聞かせてもらった。 対象者が心のゆとりを生み出していったプロセスを話すなかで、家族についてはどう語られたのかを中心に分析を行っているが、現在のところ以下のことが明らかになった。がんという病気を持ち、心のゆとりをなくした状態から、生きようと心が前向きになった経過において、がんという病気によって、自分に気づき、自分らしく生きる喜びを知ったという流れと、生かされて生きるいのちであることに気づき、自分を支えてくれている周囲のものへ自然に感謝の気持ちがわいた、自分もまわりのものに役立ちたいというような、他のものとのつながりを感じとれるゆとりが生まれていく流れがよみとれた。対象者全員が、生きたい、生きようと思ったのは家族のお陰と話し、具体的には、「家族の存在が生きがいである」「もう少し家族とともに生きたい」「がんになったのが家族でなくて私でよかった」「家族が自分を必要としてくれているから生きたいと強く思った」「愛する家族のために何かしたい」などと語っていた。そして、対象者は、自分は家族に大事にしてもらっている、自分も家族のために何かしたいという相互の関係であることを大事に思っていることがうかがえた。このことから、がん患者が心のゆとりを持つのに、家族にケアされること、家族をケアすること、この相互が重要であることが示唆された。
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