研究概要 |
(目的)これまでにラットを用いた運動トレーニングの実験の中で、ラットには良く走る「運動好きラット」と全く走らない「運動嫌い」ラットの存在することに気付き、興味深い現象として観察し続けてきた。これらのラットの脳内で発現している「自発活動誘発および抑制因子」を同定し、その調節機構を包括的に理解することは、身体活動低下に起因する生活習慣病を始めとする健康問題の解決につながる可能性が考えられる。最終的な目的は、「自発活動誘発および抑制因子」の同定であるが、本研究では第一の段階として、ラットを回転ケージで飼育し自発走行量に個体間で差が生じるかについて定量的に検討した。また、これまでの研究から加齢による体脂肪の蓄積増大によって走行距離が低下する可能性が考えられるので、脂肪組織で分泌され脳で摂食やエネルギー代謝を調節するレプチンの血中濃度と走行距離の間に関係が存在するか否かについても合わせて検討した。 (方法)3週齢のWistar系雄ラットを回転ケージで35週齢まで飼育し、走行距離を毎日、体重、摂食量を2日毎に測定した。また、体重の増加が緩やかになる27週齢まで、2週間毎に尾静脈より採血をし血清レプチン濃度をELISA法で定量した。 (結果と考察)1.12匹のラットを回転ケージで35週齢まで飼育したところ、自発走行距離の継時的変動パターンから、3つのグループに分類できることが明らかになった:#1 good runner(走行距離に継時変動が見られず、常に良く走るラット、n=2)、#2 good-bad runner(加齢に伴って自発走行距離が低下するラット、n=4)、#3bad runner(走行距離に継時変動が見られず、全く走らないラット、n=4)。これらのラットの脳を部位別に分離し、自発活動誘導・抑制遺伝子同定のためにー80℃にて保存した。 2.1の結果の典型的なラット各群2匹を摘出し、自発走行距離と体重および血中レプチン濃度の相関関係を、ピアソンの相関係数の方法で求め検定した。その結果1)いずれのグループにおいても体重の増加に伴ってレプチン濃度が上昇することがわかった。(体脂肪の蓄積に依存)。#1グループは血清レプチン濃度が上昇しても良く走ることが、#2,3グループについては、レプチン濃度が上昇すると活動量が低下することが明らかになった。しかし、その走行距離の絶対量には大きな差があった。
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