中心血液量(CBV)の増加が安静時、運動中および運動後の心循環反応に及ぼす影響を運動強度との関係から明らかにするため、健常男性8名を対象に下半身部の水浸(WI)による水圧によって、一過性にCBVを増加させた条件下での上肢運動を施行した。その結果、安静時ではWIにより心拍出量(Q)、1回拍出量(SV)および収縮期血圧はそれぞれ39.1%、79.0%、7.1%増加し、心拍数(HR)や総末梢血管抵抗は21.8%、28.9%それぞれ減少した。WI条件での運動中のQおよびSVはすべての強度レベルにおいてコントロール条件よりも高値を示し、コンディションの有意な主効果が認められた。また、SVにはコンディション×強度の有意な交互作用効果が認められ、これは両コンディション間のSVの差が低強度運動レベルよりも高強度運動レベルで縮小した結果によるものであった。WI条件での運動中および運動後のHRはすべての強度レベルにおいてコントロール条件よりも低値を示し、コンディションの有意な主効果が認められた。また、コンディション×強度およびコンディション×時間の有意な交互作用効果も認められた。これは、両コンディション間のHRの差が低強度運動レベルよりも高強度運動レベルで、また、運動前半の時間帯よりも後半の時間帯で縮小した結果によるものであった。WI条件での運動終了後の平均血圧はコンディションに関連する交互作用効果は認められなかった。WI条件での運動中の酸素摂取量(VO_2)および血中乳酸濃度(LA)は高強度運動レベルにおいてコントロール条件よりも高値を示し、コンディション×強度の有意な交互作用効果が認められた。これは両コンディション間におけるVO_2やLAの差が低強度運動レベルよりも高強度運動レベルで増大した結果によるものであった。Q-VO_2モデル式に、VO_2×HRの交互作用効果の項を付加することによって、CBVに依存して安静時のQが変化する条件下でも、安静時や運動中のQが推定できる多変量回帰モデル式が得られた。 以上、一過性のCVBの増加は運動に対応する心循環系の調節機構に影響を及ぼし、運動負荷による生理学的ストレスを軽減する可能性が示唆された。それは、高強度運動レベルよりも低強度運動レベルにおいて顕著であることが示された。
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