研究概要 |
学習者が主観的な運動の感覚を獲得するためには,客観的な運動の情報の伝達だけでは不十分であり,言語を媒介とすることによる表象の共有が不可欠である.そして,言語のもつあいまいさは,言語と運動との結びつきを普遍的なものでなく,多様なものにしている.本研究では,運動の調節を表現する感覚的なことばを用いて,客観的な運動情報(視覚的映像)から形成される運動表象がどのように分節化されているのかを明らかにした.さらに,視覚的映像に基づいて再生された動作を分析し,運動情報の伝達可能性について発達的視点から検討した. 実験Iでは,大学生40名に,異なる大きさ(空間的要素)と速さ(時間的要素)の組み合わせから構成された9つの動作をモデル呈示し,運動の調節を表現する18のことばがどの程度あてはまるかを評定させた.因子分析を行ったところ,「速さ」「大きさ」「円滑さ」の3つの因子が抽出され,「速さ」と「円滑さ」を構成することばは,動作の時間的要素を分節化し,「大きさ」を構成することばは,動作の空間的要素を分節化していた.なお,「速さ」を構成することばには,一部空間的要素も分節化することばも存在し,ことばのあいまいさが認められた. 実験IIでは,中学生および大学生各30名に対し,実験Iで用いた9つの動作を再現するよう求めた.被験者の膝関節,および足関節にゴニオメータを装着して各関節の「角度の変化」と「動作時間」を測定し,それぞれについてモデルとの誤差を求めた.分析の結果,「角度の変化」は動作の空間的要素を,「動作時間」は時間的要素を明確に分節化していることが示された.また,角度の変化では,小さい動作はより大きく,大きい動作はより小さく再生された.動作時間はモデルよりも長く,速い動作になるほどより長くなった.これらの傾向はいずれも大学生により強く認められ,発達差の存在が示唆された.
|