本科学研究では、数学的モデリングを促進する考え方の指導・評価に向けての基礎的研究として、報告書を5章にわけてまとめた。1章では、基本的用語の規定として、数学的モデルの定義、数学的モデルの類型、数学的モデリング・応用の定義について述べている。2章では、なぜ中等数学科に数学的モデリングを位置づけるのか、また、どのように中等数学科に位置づけていくのかについて、その基本的方針を述べている。3章では、数学的モデリングを促進する考え方をどのように捉えればよいのかについて、数学的モデルを構成する立場と、分析する立場から考察した。特に、数学的モデルを構成する際の考え方としては、相反する2つの考え方「現実場面を厳密に分析しようとする考え方」「数学的に処理しやすくするための考え方」を基に、これらの考えが相補性を持ちながら対立し、止揚された考え方へと発展していくという動的な思考法として捉えている。4章では、日本の1990年代の実践例における指導目標を分析し、数学的モデリング・応用の指導目標を2次元による枠組みで捉え直した。すなわち、一つの次元は、方法としての位置づけと目標としての位置づけであり、もう一つの次元は、情意的側面に関するものと認知的側面に関するものである。数学的モデリングを促進する考え方の育成は、認知的側面に関わる、目標としての位置づけにおいて、重要な役割を果たしていることがわかる。5章では、数学的モデリングをほとんど経験していない大学生を対象に、2つの調査を行っている。例えば、数学的モデリングを促進する考え方は、中・高等学校で指導することなしに、自然に育成されるものではないことが示唆されている。今後の課題は、これらの分析・考察を基に、中・高等学校において、どのように数学的モデリングを促進する考え方を指導・評価していけばよいかを事例的に考察することである。
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