本研究は、視覚美術に対する美的感受性の発達に関して、その思春期の多元的な現象を類型的な特質に着目して分析し、さらにその発達的知見から思春期の美術鑑賞学習における適時性の検証に向けた探求を進めた。 本年度は、日本の青少年の思春期前期にみられる多元的な特徴の様相を分析した昨年度の成果をふまえて、AAP(Art Appreciation Profile)を改訂し、米国でのデータを加えて比較文化的な視点から発達的な特徴の普遍性や特殊性について分析を進めた。その結果、第2段階から第3段階への発達的変化は、日本の事例でのみ検証され、台湾や米国の事例では検証されなかった。また、生得要因が強いとされる第3段階までの発達でも、環境要因に強く左右されている状況が確認され、Parsonsの仮説の普遍性を支持することができなかった。特に、日本の事例での造形要素に対する関心や認知の能力が3ヵ国中でもっとも高く、日本の思春期に特有なものであることが改めて確認された。今後、第3段階以降の発達的特徴については、造形要素の認知を含む類型的特質に対応した発達のマトリックスの再構築が必要といえる。 また、思春期に適合した鑑賞教育プログラムモデルを開発するために、発達の特質に対応させた美術理解のストラテジーを美術作品ごとに具体化し、AAPの改訂に反映させた。また、個人ごとの絵画鑑賞における意識の状況を即座に診断できるようにAAPをコンピュータ上で運用できる自己診断システムを具体化した。絵画理解や思考判断をより深化させるためのAAPの教育的活用の検証が今後の課題である。
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