研究概要 |
本研究では,楽曲データベースにおける類似検索システムの構築を目指し,その基礎となる検索アルゴリズムについて考察した.初年度は主に,楽曲間の類似性に関して,プランニングと帰納学習の立場から理論的考察を行ない,検索システム実現に向けての見通しを得た.これらを踏まえ,本年度は特に帰納学習の立場からの考察をさらに深め,検索アルゴリズムの中核をなす,効率的な楽曲間の類似性検出機構を提案し,その予備実験を行なった. 帰納学習は,所与の例題を説明する無矛盾な仮説を発見する枠組であり,近年では,データベースからの知識獲得を行なう際の中心的処理であるデータマイニングの基礎技術として注目されている.本研究では,これを楽曲の類似性を同定するための機構として利用する.すなわち,人間が類似していると考える楽曲を訓練楽曲(例題)として与え,それらを説明可能な仮説を学習することにより,類似楽曲に共通の性質を取り出す.そして,楽曲データベース中,こうした性質を有する楽曲は,訓練楽曲と類似していると考える.ここでの主要な処理は,類似楽曲を説明可能な仮説の生成であるが,本研究では,こうした処理を効率的に行なう為に,帰納論理プログラミング(ILP)における抽象化手法について提案した.本研究で扱うILPでは,仮説空間を局所変数が出現しない論理プログラムに限定することができる.こうしたクラスに対しては,無矛盾な仮説は,無矛盾な抽象仮説の単なる集合和として得られることを理論的に示した.一般に抽象仮説空間は小さく,そこでの探索は低コストで可能である.こうして得られた抽象仮説を用いることで,もとの仮説空間における無矛盾仮説が得られるため,結果として効率的な仮説生成を行なうことが可能となり,楽曲間の類似性を効率良く検出することが期待できる.なお,本抽象化手法の有効性は,計算機実験においても確認できた. 今後は,本類似性検出機構を統合した楽曲類似検索システムの構築,および,評価実験を中心として研究を継続したいと考えている.
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