研究概要 |
システム工学における意思決定の有力なツールであるAHPは,人事評価などのビジネス上での意思決定はもちろん,紛争解決や政策決定において政府の意思決定の場面で活用されいている.実用上有効であるAHPに対して,その基本解析法である固有ベクトル法はその数学的基礎が不十分であった. 本研究では,AHP上の解析方法である固有ベクトル法に対して,数理計画の観点からその数学的基礎を確立した.つまり,均衡点問題,最適化問題として固有ベクトル法のモデル化を提案した.このモデル化により,意思決定の分析者の意図を柔軟に取り込めることに成功した.さらに,固有ベクトル法の基本定理は非負行列に対するFrobeniusの定理であることを指摘し,AHPを拡張したANPに対しても,この基本定理による評価原則が成立することを明らかにした.ANPはAHPの提唱者であるSaatyによって提案されたものであるが,その解析法は十分に精緻化されていなかった,ANPの解析法がAHP同様に固有ベクトル法が適用できることにより,ANPもAHP同様広く活用されることが期待できる. 本研究では,単に意思決定におけるモデルを提案するだけでなく,非負行列に対するFrobeniusの定理の拡張を試みた.つまり,行列要素の値がある構造を持って摂動する行列の第1固有値に対するmin-max定理を明らかにした.この数学上の成果はAHP,ANPをグループ意思決定に活用する場合において非常に有用であることが予想できる.さらに,この定理に基づき,効率的に第1固有値の存在範囲を計算できるアルゴリズムを提案した.なお,実際の意思決定の場面で本アプローチの有用性の検討は,今回予算の都合上実現できなかった.この点が今後の研究課題である.
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