研究概要 |
ヒトおよびイルカ・アザラシの血液中リンパ球を単離し、ブチルスズ化合物(TBT:tributyl tin.DBT:dibutyl tin,MBT:monobutyl tin)とコプラナPCBs(IUPAC 77,126,169)添加後の細胞増殖活性を調べた。約300nMのTBT・DBT添加時に有意な増殖阻害が観察され、いずれの生物種も類似の傾向を示した。一方、3600nMのMBT、約30nMのコプラナPCBs添加では細胞への有意な影響は見られなかった。有機スズとコプラナPCBsを同時添加したところ、[DBT+77]と[DBT+169]の組み合わせで増殖阻害が見られたが、[DBT+126]混合時は増殖が亢進する傾向が観察された。以上のことから、TBT,DBTは相対的に強い免疫細胞毒性を有することが示唆され、化学種の相互暴露作用により免疫バランスが攪乱される可能性が窺えた。 リンパ球を採集した野生イルカの肝臓中TBTおよびDBT濃度は、280-1,600nM,860-4,700nMと増殖阻害が観察された300nMに比べて明らかに高かった。一方、脂肪中コプラナPCB濃度は、0.3-4.4nMとリンパ球に添加した最大濃度の30nMと比較して低値であった。これらの結果は、比較的高濃度の化学汚染を受けている海棲ほ乳類にブチルスズによる免疫攪乱が起こっている可能性を暗示している。また、ヒト肝臓および血液から数10ppbレベルの有機スズ検出の報告もあることから、今後人体へのスズ暴露量評価やその影響について疫学調査・研究を進める必要があるだろう。
|