研究概要 |
本研究はアポトーシスやストレス応答に関与するJNKカスケードの制御機構の解明を目的として、このカスケードの3つのキナーゼを空間的に接近させシグナル伝達を促進させるスキャホールドタンパク質JSAP1に関して、以下の解析を行った。 1.JNKカスケードのスキャホールドタンパク質JSAP1のERKカスケードにおけるサプレッサーとしての機能解析.(1)JSAP1は、細胞増殖や分化のシグナル伝達に関与するMAPKカスケードの1つ、ERKカスケードのメンバーであるcRaf1(MAPKKK)とMEK1(MAPKK)と両者ともに、C末端約200アミノ酸の領域で相互作用する。(2)JSAP1は、フォルボールエステル(TPA)によるERKカスケードの活性化を抑制する。(3)JSAP1は、cRaf1との結合により、cRaf1からMEK1のリン酸化を阻害する。以上の結果より、JNKカスケードのスキャホールドタンパク質JSAP1は、ERKカスケードを抑制する多機能なMAPKカスケード制御タンパク質であり、2つのカスケード間のクロストークを含めバランスを制御するメデイエータータンパク質である可能性がある。<Kuboki,Y.,Ito.M.et al.J.Biol.Chem.275,39815-39818(2000):Ito.M.et al.Gene 255,229-234(2000)> 2.マウス神経発生過程および成体脳における免疫組織学的解析.(1)JSAP1は、マウス発生過程において脳、脊髄神経系で発現が認められ、ニューロン前駆細胞ではなく、分化が決定したニューロンに発現が多い。また、その細胞内局在は核ではなく細胞体と軸索である。(2)JSAP1は、成体脳においてほぼすべてのニューロンの細胞体でその存在が認められる。また、海馬CA3領域のピラミダルニューロンでは細胞体と樹状突起にその存在が認められ、ストレスによる神経細胞死との連関が考えられる。<Akechi,M.,Ito.M.et al.,Neurosci.Res.(2001)in press>
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