研究概要 |
シトクロムP450cam(P450)は鉄-硫黄タンパク質であるプチダレドキシン(Pdx)から得た電子を用いて酸素分子を活性化し、水酸化反応を行うヘム酵素である。我々はPdxとP450の相互作用の研究の中で一酸化炭素がヘムに結合したP450は、その赤外CO伸縮振動がPdxの結合に伴い1940cm-1から1932cm-1へ低波数シフトすることを見い出し、この構造変化がP450活性発現に重要な役割を持っているとの仮説を立てた。 プチダレドキシンが結合するP450表面のアミノ酸(Arg79,109,112,364)を種々のアミノ酸に置換した変異型P450を調整し、これらの変異型のPdx結合に伴う構造変化と酵素活性との関連について検討した。その結果Arg109,112を置換した変異型ではPdx結合時においても1940cm-1を示すコンホーマーと1932cm-1を示すコンホーマーが混在した状態になった。また、これら変異型の酵素活性は1932cm-1を示すコンホーマーの割合にほぼ比例していることを見出した。この構造変化と酵素活性との関連からPdxが結合するとP450の活性は約3倍に増大することが明らかとなった。さらに我々はこのような構造変化がPdxの結合によって誘起される分子メカニズムを明らかにすべく、Arg109、112の変異型P450のX線結晶構造解析を行った。これら変異型ではアミノ酸置換に伴う構造変化はアミノ酸を置換した部位近傍に限られていた。このことはPdx結合によってP450の構造が変化するためにはArg109やArg112のアミノ酸残基とPdxの表面残基との相互作用(おそらく水素結合や塩橋)が主要な役割を果たしていることを示している。 これまでにPdxの結合によってP450の様々な分光学的性質が変化することが報告されながら、その機能的意義については明らかではなかったが、本研究は初めてその意義について重要な知見を示すことに成功した。
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