研究概要 |
マウスのDNAポリメラーゼαの触媒サブユニットであるp180のドメイン構造を明らかにするため、バキュロウイルス発現系による機能解析を試みた。p180の全長,110kDaのコアドメイン,31kDaのC末端亜鉛フィンガードメインを精製した。ポリメラーゼ活性を測定した結果、活性化DNAを鋳型とした比活性は全長とコアドメインとでほぼ一致し、コアドメインがポリメラーゼとしての必要十分な最小ドメインであることが確認された。一方、亜鉛フィンガードメインはp68と共発現させて始めて可溶性の複合体として精製され,一本鎖DNAに対して結合活性を有することを見出した。表面プラズモン共鳴実験の結果,亜鉛フィンガードメインが一本鎖DNAに対してコアドメインより付きにくいが離れにくいという性質を持つことが判明した。亜鉛フィンガードメインはα型ポリメラーゼに共通しており,他のポリメラーゼの亜鉛フィンガーモチーフの機能を比較することで,各ポリメラーゼの固有の特徴を浮き彫りにできるのではないかと考えられ,興味深い知見となった。一方,大量調製した精製コアドメインを用いてα型ポリメラーゼに特異的な阻害剤を検索したところ,dehydroaltenusinという物質がDNAポリメラーゼαに特異的な阻害効果を持つことを見出した。興味深いことに,この阻害効果は哺乳類細胞のDNAポリメラーゼαに特異的であり,魚類のDNAポリメラーゼα,ラットDNAポリメラーゼβ,ウシDNAポリメラーゼδ,ヒトDNAポリメラーゼε等に対しては阻害効果を示さなかった。また,aphidocolinよりも10倍以上も低い濃度のIC50を示した。阻害効果の機構を調べた結果,コアドメインの一本鎖DNA結合部位に配位し,template-primerとの結合を拮抗的に阻害することも明らかとなった。α型ポリメラーゼの核内での機能分担を解明する上で強力なtoolとなることが期待された。
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