研究概要 |
本年度は、蛋白質の水和理論(拡張scaled particle理論)の応用を試みた。 ●水和自由エネルギー計算理論(拡張scaled particle理論)の確立を行なった。我々が高分子への拡張を行なった拡張scaled particle理論であるが、高分子に特有の理論上の困難である、複数個の分子が蛋白質を構成している場合や蛋白質内部に水の入る空洞がある場合に、この理論を適応可能にした。具体的には、3種類の蛋白質分子(avian pancreatic polypeptide,G-actin,F-actin)について計算幾何学手法を用い、仮想的に分子を縮小した際の任意の倍率での排除体積を解析的計算により求めた。これにより、任意形状の蛋白質分子の水和自由エネルギーが式として得られるだけでなく、蛋白質分子同士(特にG-actin,F-actin)の会合の際に働く分子間力の計算が可能となった。この分子間力に関する理論としてはAsakura-Oosawa理論が知られているが、拡張scaled particle理論のマクロ極限の式がこのAsakura-Oosawa理論になっていることも確かめることができた。さらに、蛋白質の立体構造予測問題のモデル計算として、ペプチドの溶媒中での安定構造を拡張scaled particle理論により求めた。 ●拡張scaled particle理論での計算を計算幾何学でのボロノイ多面体計算を用いてプログラムを高速化した。4次元空間での凸包問題により3次元のボロノイ多面体を計算するようにした。また、このボロノイ多面体を静電場計算での境界要素法に用いた。また、境界要素の形状の粗密度と計算の精度および速度との関係について調べた。その結果、ボロノイ多面体から得られる境界要素形状の情報が重要であることがわかった。
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