研究概要 |
スフィンゴシン1-リン酸の、受容体を介した細胞運動制御機構についての解析を行った。 まず、マウスの培養細胞NIH/3T3,Swiss/3T3,B16F10において、4種のスフィンゴシン1-リン酸受容体分子、Edg1,Edg3,Edg5/Agr16が、内在性に発現しているかどうかを、RT-PCR法およびノザンブロッティング法をもちいて検討した。その結果、スフィンゴシン1-リン酸によって運動を抑制されるB16F10細胞では、Edg5/Agr16の発現が高く、Edg1、Edg3は発現していないこと、一方スフィンゴシン1-リン酸が走化性因子として作用するNIH/3T3細胞、Swiss/3T3細胞では、これら3種の受容体がすべて発現していることが明らかになった。また、血球系の細胞で多く発現しているスフィンゴシン1-リン酸受容体Edg6は、これらの細胞株ではいずれも発現していなかった。 次に、それぞれの受容体の発現がアクチン細胞骨格に与える影響について、CHO細胞、COS7細胞に一過性にそれぞれの受容体を発現させることで検討した。Edg5/Agr16の発現によって細胞は収縮し、このときアクチンストレスファイバーの若干の増強が見られた。Edg3の発現では、細胞膜周辺に微小突起や葉状突起が形成された。しかし、Edg6は、細胞膜表面に均一に発現しなかった。Edg1の発現は細胞形態に顕著な変化をおよぼさなかった。 以上の結果から、特にB16F10細胞において、スフィンゴシン1-リン酸はEdg5を介して細胞内アクチン繊維の過剰な重合を引き起こすことにより、細胞運動を抑制していることが示唆された。
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