研究概要 |
低分子量GTPase,Rhoは、Lysophosphatidic acid(LPA)などの細胞外シグナルの下流で主にアクチン系の細胞骨格を制御していると考えられている。私は既に、Rhoのエフェクター分子としてRho-キナーゼとMBSを同定し、Rho-キナーゼとMBSが協調してミオシン等の基質のリン酸化レベルを調節していることを報告している。本研究では、Rho-キナーゼによる細胞骨格の制御機構を明らかにすることを目的としRho-キナーゼの基質蛋白質の解析を行った。 本研究では、Rho-キナーゼの新規基質蛋白質としてCollapsin Response Mediator Protein-2(CRMP-2)とcalponinを同定し、その機能解析を行った。CRMP-2は線虫において神経発生に関与すると考えられているUNC-33の相同遺伝子であり、鳥類や哺乳類の神経細胞においても高い発現が認められている。私はCRMP-2がRho-キナーゼにより効率よくリン酸化されること、またCRMP-2のRho-キナーゼによるリン酸化部位がThr-555であることを見出した。さらに、CRMP-2のThr-555のリン酸化状態を認識する抗リン酸化抗体を作製し、in vivoにおけるCRMP-2のリン酸化状態を解析した。トリ後根神経節細胞においてはLPAにより成長円錐の退縮が認められるが、このときCRMP-2のThr-555のリン酸化が亢進していること、このリン酸化の亢進はRho-キナーゼの阻害剤であるHA1077やY-32885で抑制されることを見出した。CRMP-2のリン酸化部位に変異を導入した変異型CRMP-2を後根神経節細胞に発現させるとLPAによる成長円錐退縮が低下することから、Rho-キナーゼによるCRMP-2のリン酸化がLPAによる成長円錐退縮に関与していることが示唆された。一方、私はアクチン結合蛋白質で平滑筋の収縮に関与すると考えられているcalponinがRho-キナーゼの基質となることを見出した。calponinはRho-キナーゼにより効率よくリン酸化され、またそのリン酸化部位はThr-170,Ser-175,Thr-180,Thr-184,及びThr-259であった。Rho-キナーゼによりリン酸化するとcalponinのアクチン結合能が低下したことから、Rho-キナーゼはcalponinの活性を制御することが示唆された。 以上、本研究の研究目標はほぼ達成できたと考えられる。
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