発生期の大脳皮質で一過性に強い発現を示す新規遺伝子として研究代表者らが同定した遺伝子の一つ(便宜的に「KI遺伝子」と称する)は、発現強度に前後軸に沿う部位差がみられた。本研究はこの遺伝子の解析を通じて大脳皮質に部位差が形成されるメカニズムを明らかにしようとするものである。その後の研究により、このKI遺伝子産物は大脳皮質形成時の細胞移動に必須のアクチン結合蛋白質Filamin 1に結合しその分解を促進することによって細胞移動を負に制御する新たな因子であることが示唆された。本研究は追加で採択が決定されたために研究開始が半年以上遅れたが11年度にはKI遺伝子産物に対する抗体作成に着手しており、12年度は引き続き抗体作成を完了するとともにそれを用いて遺伝子産物の解析を行った。 その結果、当抗体によるウエスタン解析によりKI遺伝子産物にはこれまでから予想されていた蛋白質に加え、altemative splicingにより生ずると考えられるもう1つの分子種が存在すること、大脳皮質における遺伝子発現は胎生後期には減弱するのに対し遺伝子産物は生後数日の間検出されること、発生途中の大脳皮質では新たに同定されたKI遺伝子産物が以前から予想されていたものに比べて量的に優位に存在していることが明らかになった。さらに新たに同定された遺伝子産物に対応する遺伝子を単離し機能を検討したところFilamin 1の分解を誘導する活性がより大きく、その存在量と合わせ大脳皮質内では新たに同定された遺伝子産物が主に機能していることが示唆された。現在、KI遺伝子産物の組織分布にも部位差が見られるかを解析するため、作成した抗体を用いた免疫組織化学染色法を検討中である。
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