研究概要 |
生体の情報処理を司る神経回路網は、その形成過程においてまず余分な回路網を多数形成し、必要なもののみ残して不必要なものを排除するという戦略をとる。我々は同様の発達過程を経ることが知られている、小脳登上線維-プルキンエ細胞投射系においてこの現象を解析し、これまでに過剰な登上線維シナプス除去の過程に、mGluR1-Gαq-PLCβ4-PKCγを介する細胞内シグナル伝達が必要であることを明らかにした。しかし、mGluR1-Gαq-PLCβ4-PKCγのあとに来る経路は何か、また、最終的な標的は何かという点に関しては未だ不明であった。この原因の一つとして、登上線維-プルキンエ細胞シナプス伝達の発達過程に起こる変化に関する基礎的な研究がほとんどされていないため、制御の対象となる機構を推定できないという点があげられる。このため、我々は発達に伴う登上線維応答の電気生理学的な変化を詳細に解析する実験を行った。その結果、将来排除されると思われる弱い入力を持つ登上線維は、残存すると思われる強い入力に比べて,シナプス間隙の伝達物質濃度の減少が起こっていることが分かった。しかし、伝達物質放出の基本単位であるシナプス小胞一個の放出により誘発される反応に変化はみられなかった。これらの結果より、登上線維の排除に先立つ過程として、一回の刺激で放出されるシナプス小胞の数が減少して,プルキンエ細胞に与える影響が小さくなっていることが推測された。これは、登上線維の排除過程の少なくとも一部分にはシナプス前終末(登上線維側)の機構が関与していることをあらわしていると思われる。
|