物体の形を視覚的に認識する腹側視覚経路の最終段階に大脳皮質下側頭葉TE野は位置している。TE野は記憶と関わる周嗅皮質に隣接する腹側部と顔の認識に関わる上側頭溝に隣接する背側部の二つの領域に区分される。TE野の二つの領域の細胞の視覚刺激に対する応答を比較したところ、細胞の基本的な性質に大きな差はなかったが、好む視覚刺激が領野により異なっていた。腹側の細胞はより色のついた複雑な図形を好むが、背側部ではそのような傾向は無かった(Cerebral Cortex誌で印刷中である)。 このようなTE野細胞の複雑な図形パターンに対する反応選択性の形成機構については全く明らかにされていない。そこで本研究課題では、平成11年度の研究において、TE野入力層である4層と出力層である2・3層の細胞の反応選択性について解析した。その結果、4層から2・3層へと、処理が進む過程で、細胞の反応選択性が形成されている可能性を示した(投稿準備中)。今年度は抑制性細胞の反応選択性形成機構への関与を明らかにするために、抑制性細胞の性質と他の神経細胞との結合様式について解析した。抑制性細胞は、マルチニューロン記録により同時記録した神経細胞のスパイク列間で相互相関解析を行い、機能的結合の極性と方向から推定した。その結果、抑制性細胞は、興奮性細胞と同程度に刺激選択的であること、抑制性細胞は、反応選択性が良く似た細胞に対して抑制性結合を有する場合と、反応選択性が全く異なる細胞に対して、抑制性結合を有する場合があった。以上の結果は、抑制性細胞が視覚刺激に対する細胞の反応選択性形成に寄与する可能性を示すものである(この成果はシンポジウムにおいて発表、現在投稿中である)。 さらに、神経細胞活動を正確に長時間安定に記録する目的で、電極位置を自動で制御可能な神経細胞活動計測装置の開発に成功した。(特許第3131628)
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