研究概要 |
新生ラット培養心筋細胞を用いて,模擬的虚血・再灌流に伴う拍動リズムゆらぎの変化を明らかにすることを目的として実験を行った. 生後1〜3日目の新生ラットの心室からタンパク質分解酵素処理により心筋細胞を単離した.単離した心筋細胞は培養液MCDB107により培養用フラスコ内で5〜10日間培養した.虚血状態の模擬は通常の培養液からグルコースを除去したものに培養液を交換し,さらにフラスコ内にN_2ガスを充満し,閉鎖系とすることで行った.一方再灌流は,フラスコを開放して有酸素化し,通常の培養液に戻すことで模擬した. 虚血開始1時間後の時点で拍動周期は有意に延長し,拍動リズムゆらぎの大きさを表す拍動周期の変動係数も有意に増加した.さらに虚血開始3時間後には,ほとんどの細胞が拍動を停止したが,拍動が持続した細胞においても,さらなる拍動周期の延長,及び変動係数の増加が認められた.再灌流後は,一時的に拍動周期の短い,安定した(変動係数の小さい)拍動が出現し,その後1時間までには虚血前の状態に戻った.これ以前の研究において,細胞間の電気的相互作用が培養心筋細胞の拍動リズムゆらぎ大きな影響を与えることがわかっており,虚血負荷中の心筋細胞拍動リズムゆらぎの増加は,虚血状態に伴って起こる細胞内pHの低下により引き起こされる,細胞間の電気的結合の低下によるものである可能性が挙げられる.しかしながら,虚血負荷中の細胞内pHは時間経過に伴って徐々に減少していたが,拍動リズムゆらぎが増大する虚血開始1時間後の時点では,ギャップ結合透過性を十分に減少させるレベルまで低下するには至らなかった.さらに,虚血状態下においても,同一集塊内に存在する心筋細胞の拍動リズムは同期していたことから,本実験で用いた虚血負荷により誘発される拍動リズムゆらぎの増加は,細胞間の電気的相互作用の減少に依るものではなく,培養心筋細胞の興奮特性の変化によるものである可能性が示唆された.
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