本研究では、多数のα-シクロデキストリン(α-CD)空洞部を貫通したポリエチレングリコール(PEG)の両末端を嵩高い生分解性基(L-フェニルアラニン)を導入したポリロタキサンの棒状構造を利用して、粘膜からの薬物透過を促進した後に生体無害な分子に代謝される薬物運搬体の創製を目指してきた。これまでに、ポリロタキサンの細胞膜結合酵素存在下での分解に伴う超分子構造の解離と、ポリロタキサンと培養上皮細胞との相互作用に伴った細胞間タイト結合への影響を明らかにした。最終年である平成12年度では、超分子構造の解離に必須な細胞膜結合酵素-ポリロタキサン末端基間の相互作用におけるポリロタキサン構造の効果を定量的に明らかにするとともに、粘膜吸着やそれに伴う細胞間タイト結合の開孔に重要なカルシウムイオンをキレートする官能基としてカルボキシル基をポリロタキサン中のα-CD水酸基へ導入した。 ポリロタキサンの両末端基としてL-フェニルアラニルグリシルグリシン(FGG)を導入し、細胞膜表面に結合したペプチド分解酵素であるアミノペプチダーゼMとの相互作用を速度論的に解析した。酵素-基質問相互作用の指標となるミカエリスメンテン定数は、ポリロタキサンを基質とすると、α-CDが貫通していないモデル高分子(FGG導入PEG)のそれと比較して1/22であった。このことは、ポリロタキサン構造により末端FGGとアミノペプチダーゼMの活性中心とが相互作用しやすくなったことを示しており、粘膜表面に存在する酵素により特異的に分解可能であることが示された。 また、無水ピリジン中でのポリロタキサン水酸基と無水コハク酸との反応により、ポリロタキサン1分子中にカルボキシエチルエステル基を約200-240個導入することができた。水溶液への溶解性は、カルボキシエチルエステル基の導入により向上し、特にカルボキシエチルエステル基のpKa(3-4)以上となると最大約40wt-%まで溶解するようになった。カルシウム電極を用いてカルシウムキレート能を評価したところ、確かにカルボキシエチルエステル基2分子がカルシウムイオン1分子をキレートすることを確認した。 以上から、ポリロタキサン構造による細胞膜結合酵素分解性の確保と、粘膜吸着やそれに伴う細胞間タイト結合の開孔に重要なカルシウムイオンをキレー卜する機能とを兼備した薬物運搬体として設計可能であることを、本研究を通じて示すことができた。
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