研究概要 |
本年度は、Hbの共鳴メカニズムの解明と動的ラマン分析法の応用、およびスペクトル測定精度向上のためのレーザー光源の改良を行った。前年度に行った励起波長変化に伴う強度変化の動的解析に続き、Oxy-,Deoxy-ヘモグロビン(Hb)のラマンスペクトルの振動モードの動的変化を解析した結果、500-550nm付近のQバンド電子遷移への共鳴によって増強される非対称的な振動モードの強度が、対称的な振動モードに比較して、励起波長が長くなるに従って急速に減衰し、860nmの励起波長では共鳴効果が非常に小さくなることが示された。従って、Hbの近赤外励起ラマンスペクトルはQバンドに共鳴しており、共鳴のメカニズムがAlbrechtのB項に従うことが確認された。また従来、Hbの1064nm励起FT-ラマンスペクトル中でヘム色素に由来する振動モードが強く観測される理由として、近赤外域の弱い吸収バンドへの共鳴が議論されてきたが、本研究により、共鳴ではなくヘムの持つ強い分極率によりヘムの振動モードが強く観測されることが結論づけられた。本年度新たに、非共鳴分子種によるスペクトルへの寄与を抽出する目的で、全血スペクトルの動的ラマン分析を行ったが、ノイズ成分が強すぎて非共鳴分子種であるグルコースのバンドを抽出することはできなかった。スペクトルノイズの低減のため、ポンプレーザーを新開発して電子制御波長可変レーザーの高出力化を試みたが、ポンプレーザーに用いるミラーマウント等の機械的安定性に問題があり、改良を行っている。また、ノイズの原因となるレーザー波長の不安定性を解消するために、温度制御機構を取り入れた波長可変レーザーを設計しており、現在試作器を制作中である。本研究の成果は、装置開発およびOxy-,Deoxy-Hbの動的ラマン分析に関して、2編の論文として準備中である。
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