研究概要 |
本科学研究費の研究から,兵庫県南部地震による斜面崩壊の機構の解明や崩壊予知にとって,岩石や鉱物の化学組成や画像はきわめて有効で,断層に沿って侵入した熱水がきわめて重要な働きをなすことが明らかとなり,崩壊予知も可能であることが判明した。特に,花崗岩中の粘土質細脈は重要で,地震で損傷した斜面の多くはその後の降雨で,この粘土質細脈に沿って崩壊が拡大していることが明らかとなった。科研費で購入した電界放射型走査電子顕微鏡により,粘土質細脈を検討すると,長石や黒雲母が変質して,斜長石の劈開に沿ってカオリナイトなどの粘土鉱物が生じ,黒雲母では劈開に沿ってスメクタイトやバーミキュライトが生じていた。化学組成や画像の特徴から,黒雲母から粘土鉱物への系統的な変化や,長石の粘土鉱物への変化は風化作用の程度に対応していることが判明し,電界放射型走査電子顕微鏡での画像研究は斜面崩壊の機構研究や崩壊予知にきわめて有効であることが明らかとなった。斜面崩壊地の化学組成をみると,風化が進むにつれ,CaO, MgOなどの元素逸脱度が系統的にみられ,化学組成からも崩壊の予知が可能である。崩壊地の分布と航空写真から,崩壊分布をみると,崩壊は六甲山の東部で多く,しかも断層に沿って細脈が多く存在するところに多いことが判明した。降雨での崩壊拡大は,風化作用が著しい所,すなわち,カオリナイトが生じている所で多く発生している。分担者の宮田により,斜面崩壊多発地の断層調査が行われ,崩壊地には小断層が,しかも破砕帯中に粘土質細脈が発達していた。また,台湾などの活断層調査も行われ,兵庫県南部地震との比較が行われ,後者の規模が大きいのに,被害は前者が多いことが明らかとなった。斜面崩壊多発地域の河川水の化学分析を分担者の梅本が行い,これら地域ではCaOやMgOなどが高い値を持つことが明らかとなり,水質も崩壊の予知に有効であることが明らかとなった。また,生野山地ではリンが多く異なっていた。河川底質の検討が分担者である駒井により明らかにされた。崩壊多発地では,Caに富む粘土が多いことやリンも高く,長期的な崩壊予測に底質も検討する必要がある。斜面崩壊地の花崗岩の調査が,分担者である先山により明らかにされた。崩壊多発地の花崗岩は磁鉄鉱を含み,帯磁率が高い磁鉄鉱系花崗岩からなることを明らかにした。この磁鉄鉱は断層に沿って侵入した熱水により,黒雲母が分解し鉄が析出したためである。
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