研究概要 |
私たちが物を詳細に見るときには,中心視野を使う。しかし,外界を広く見るときには周辺視野が重要になってくる.周辺視野は中心視野に比べて,視覚の時空間感度特性が異なっているので,大視野ディスプレイなどで臨場感のある画像を有効に呈示するには周辺視野特性を十分に考慮する必要がある。本研究では心理物理学的方法により,1.眼球運動中における視空間定位と視野変位感度,2.時間的コントラスト感度,3.カテゴリカル色知覚,4.臨場感の指標となる視覚誘導自己運動感覚(ベクション)を指標として,周辺視野の感度を計測し,その定量化を図った.得られた研究成果をまとめると以下の通りである. 1.眼球運動に同期して周辺視の感度を測定できる大視野呈示装置を開発し,跳躍眼球運動(サッカード)と追従眼球運動中の周辺視野における空間定位および特徴,変位弁別感度測定を行った。その結果,跳躍眼球運動直前において周辺視野にある目標物体はより詳細に弁別されること,跳躍眼球運動時には視空間の圧縮が生起するが追従眼球運動時には生起しないこと,周辺視野を含んだ大視野の変位感度は低下することを示し,眼球運動時の周辺視野での時空間特性を定量化した. 2.MFスケーリングにより刺激のサイズと網膜照度をシステマティックに変えて耳側周辺網膜30,40度での時間的コントラスト感度関数を精密に測定し,周辺視野での時間特性を定量化した. 3.全視野半球ドーム状の視野計により周辺視野でのカテゴリカル色知覚を広範囲の明るさレベルで測定し,周辺視野では色の見えは連続的には変化するものの,カテゴリカル的には一定であるという特性を明らかにした. 4.周辺視野が観察者に与える臨場感を調べるために,刺激視野サイズと視覚誘導自己運動感覚(ベクション)強度の関係を調べた.刺激視野サイズは視角80度までは臨場感に強い影響を与えるが,それ以上大きくしても効果の少ないこと,ベクション強度は重心動揺とも強い相関にあることを示し,臨場感の定量化を行った.
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