研究概要 |
本研究では,硬さ判定は指先の接触部分における物体と指先の皮膚の相対的な変形が重要な指標になると仮定し,試料を指先に押し込む深さ,速度等接触状態を変化させた時の指先にかかる力を測定し,その接触力と硬さ判断との関係を調べることを目的として2種類の実験を実施した. まず「硬さの判定実験」として2種類の硬さが異なる試料を指に押し込み,一対比較法によりどちらが硬いかを回答させ,その正答率と押し込む条件との関係を見た.次に「硬さの評価実験」として,シェッフェの一対比較法を用いて対象物の硬さに対する主観的な硬さ評価と押し込む条件との関係を調べた. これらの実験結果から次のことがわかった. 1)試料の材質が硬くなるほど,接触力,硬さ評価ともに上昇する. 2)試料の直径が大きくなるほど,接触力,硬さ評価ともに上昇する. 3)押し込み深さが深くなるほど接触力は増加する.また,2種類の硬さを判定する正答率,硬さの主観的な評価ともに上昇する. 4)押し込み速度が変化しても接触力は変わらず,また2種類の硬さを判定する正答率にも変化はない,しかし硬さの主観的な評価は速度が速くなると上昇する. 5)2種類の硬さの違う試料の接触力の差と,硬さの違いを判別する正答率とは相関が無い. 6)押し込みが深くなると硬さを判定する正答率が上昇する理由として,皮膚の深部に位置し,圧覚に深く関わりのあるSAII型の触覚受容器がより刺激された事が示唆された. これらの結果から,押し込み速度が遅い時と速い時では試料の硬さを感知する触覚受容器の種類が異なるために,硬さ評価が変化することが考えられる.押し込み速度が遅いときはSAI・II型の遅順応型受容器が,速度が速いときはRAI・II型の速順応型受容器の興奮性が優位になり,速度の違いによって硬さの評価に影響する触覚受容器の種類が異なるため,硬さ評価が変化すると思われる.以上より,硬さの判断には力覚だけでなく接触状態,特に接触速度が力覚とは独立して影響を及ぼしていることが示された.
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