研究概要 |
「臨場感」という感覚の性質を明らかにすることを目的とし,平成11年度は聴覚臨場感について,平成12年度は視覚情報が聴覚臨場感に及ぼす影響という観点から視聴覚臨場感について研究を行った. 1.23種の環境音を刺激音として,以下の3種の実験を行った. (1)音源の種類が臨場感に及ぼす影響を調べるために一対比較実験を行い,尺度構成した.受聴者に対して音源が相対的に動く音および音像に広がりのある音の臨場感が有意に高いと評価されることを明らかにした. (2)音の再生方式が臨場感に及ぼす影響を調べるための一対比較実験を行い,尺度構成した.音像の定位情報が正確に再現される方式ほど臨場感が有意に高いと評価されることを明らかにした. (3)刺激音の各々を33種類の評価語対により評価するSD法の実験を行った結果を因子分析し,5因子(量的因子,美的因子,柔らかさ因子,音情報因子,音像定位因子)を抽出した.次に,これらの因子得点を説明変数とし,臨場感評価値を目的変数とした重回帰分析を行った結果,臨場感はこれらの因子の線形結合として表現される多次元的な感覚であることを明らかにした(重相関係数:0.92). 2.50インチディスプレイにより視覚情報を同時提示し,以下の2種の実験を行った. (1)映像を付加した状態で上記1と同様の実験を行った結果,映像が音源を含むなど録音場の状況を正確に伝えるものである場合,および付加された映像が動的な場合には臨場感が高くなる傾向が顕著であることを示した. (2)一つの映像に対して再生音圧を変化させて臨場感を調べ,原音場における音圧よりも5dB程度高い場合に最も臨場感が高くなることを示した.これは,臨場感のうちの情報因子(情報が自然に伝達されているか否か)と迫力因子が複合的に現れたものと考えた. 以上を総じて,曖昧な感覚とされてきた臨場感について,定量的な解析を行った.
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